レガシーのすすめ#2
2016年5月吉日
Auther : ちゅん
《Underground Sea》。
《レガシー》という環境を象徴するカード群、《デュアルランド》の一角にして最強との呼び声も高い一枚である。
価格に限っていえば《Volcanic Island》と並んで最高額だ。
GameShopさかいやのショーケースで圧倒的な存在感を放っていたこのカードも、店舗である限り売却され人の手に渡っていく。
1.
のぶ太は不思議な光景を目の当たりにしていた。
地平線が見えそうなほど広大な草原、遥か遠くに歴史の教科書でみたギリシャ風の神殿。
そして空を埋め尽くす星々。
「ここは……」
のぶ太はさきほどまでのことを思い返す。
MOに疲れて布団に入ったところまでは記憶にある。
つまりこれは夢だと決め、あまりにも鮮明な風景に感嘆していたところで背後に気配を感じた。
振り返るとそこには人がいた。
いや、「それ」を人と呼んでいいのかどうか、のぶ太には判断がつかなかった。
全てが異様だった。
一際目を惹くのが顔の上半分で、そこに本来あるはずのものが存在しなかった。
代わりに顔の下半分から黒い瘴気が吹き出している。
これは夢じゃない、悪夢だ。
のぶ太は『それ』から一目散に逃げようとしたが、瘴気が伸びて四肢を絡め、身動きが取れなくなった。
「ひぃぃ」
瘴気の触れた部分から痒みを感じる。
感覚があることが異常なのだが、のぶ太にそこまで思考を巡らす余裕はない。
『それ』は瘴気を操り、のぶ太を正面に見据えさせた。
そして顔に残った数少ないパーツの一つある口から、男とも女ともとれない声が発せられる。
「私を使え」
2.
「寝てたほうがいいんじゃないの?顔色悪いよ」
翌日、ギャザ松との約束もありのぶ太はさかいやへ来ていた。
指摘されるまでもなくのぶ太の体調は最悪だが、一人で寝るなんてできそうにない。
それどころか自分の部屋に帰ることを考えただけでも憂鬱だった。
「いや、今日は一人でいたくないんだ。
ギャザ松、お前のうちに泊まってもいいか」
「のぶ太……」
悪夢から逃れたいという一心からギャザ松の両肩を掴み、懇願するのぶ太。
頬を赤らめるギャザ松。
「これ、二人ともまずは落ち着きなさい」
「「店長!!」」
突然の店長登場に思わず距離をとる二人。
そもそも店長の店なので特に驚くことはない。
「のぶ太くん、風邪をひいたなら無理せず家で休みなさい。
同じカードを触ったりするから店内感染は起こりやすいんですよ。
ギャザ松くんも顔が赤くなってるじゃあないですか」
「いや店長、これは――」
「違うんです!
これには事情があります」
のぶ太は動揺するギャザ松をおいて昨夜の悪夢について説明を始めた。
最初はたかが夢と考えていたギャザ松だが、のぶ太が両腕に残った瘴気による痣を見せたところで表情が険しくなる。
のぶ太が話し終えたところで、終始深刻な顔で話を聞いていた店長が一枚のカードを取り出した。
《悪夢の織り手、アショク》
「これはひょっとすると、アショクの仕業かもしれませんね」
そこにはのぶ太の夢に出てきた存在とそっくり同じものが描かれていた。
「あー、こいつです!
このカードに書かれているものが出てきたんです」
「でも店長、のぶ太はこのカードを知らないみたいなのに、どうして夢に見るんでしょう」
「アショクは人々に青マナと黒マナを使用して悪夢を見せる《プレインズウォーカー》です。
おそらくのぶ太くんが《Underground Sea》を手に入れたことを嗅ぎ付け、《テーロス》次元から誘惑に来たのでしょう」
「待ってください店長、プレインズウォーカーは実在するんですか!」
「その前にのぶ太、いつの間にデュアルランド買ったの。
一緒にエターナル始めるって言ったじゃないか!」
暴かれる驚愕の真実たち。
詰め寄るギャザ松をなだめ、のぶ太はアショクから逃れる方法を店長に尋ねた。
「プレインズウォーカーは強大です。
目をつけられたからには、しっかりと対策と練って備えるかおとなしく従うかしかないでしょう。
幸いアショクは今テーロスでの計画を疎かにできないはず。
いったん《悪夢の織り手、アショク》入りのデッキをつくればそれで満足するでしょう」
「よかった、じゃあさっそくアショク入りのデッキを考えてみます。
でもこのカード、レガシーで活躍できるスペックを持っているんでしょうか」
マナコストとテキストを眺めながら疑問を口にするのぶ太。
「どのカードでも多くの可能性を秘めているのは前回言いましたよね。
では今日は、実際にカードの可能性を高める方法を少し伝授しましょう」
3.
まず、二人がレガシーについて思い浮かべることはなんですか。
そうですね、高速環境、圧倒的なカードパワー。
《スタンダード》と比べるとそのような印象が強いと思います。
《モダン》のような禁止カードによる調整も少ないのでさらに恐ろしいものと思うかもしれません。
《ベルチャー》《ドレッジ》《ANT》など、1ターン目にして勝利する可能性を秘めたデッキも実際あります。
しかし、環境はそれらに支配されてはいません。
勝つための強大なカードがある一方、勝たせないための強大なカードもあるからです。
たとえばパーマネント破壊。
盤面にまず影響を与えず1マナでクリーチャーを追放する《剣を鋤に》。
呪禁があろうとプロテクションがあろうと、土地以外ならなんでも追放できる《議会の採決》。
奇跡を起こして全てのクリーチャーをライブラリーボトムに送る《終末》。
白が持つ盤面への影響力は他の追随を許さないでしょう。
もちろん他の色も得手不得手はありますが破壊、追放、手札に戻すなどでパーマネントに対策できます。
たとえばカウンター。
ハンドアドバンテージのロスと引き換えにマナコストを支払わず唱えられる《Force of Will》。
2マナで広く対応できる《対抗呪文》。
フェッチランドや《石鍛冶の神秘家》、ストーム呪文など起動や誘発に対応できる《もみ消し》。
タイミングこそ難しいですが、その効力は多くのプレイヤーに青を選択させる理由の大きな一つになっています。
その青が強力なゆえ、《赤霊破》など青対策のカウンターも相対的に評価を上げています。
たとえば手札破壊。
ライフロスはあるものの万能な《思考囲い》。
環境への理解と読みのスキルがあれば1枚で複数のカードを落とす可能性があり、フラッシュバックで撃ち漏らしを回避する《陰謀団式療法》。
相手の手札を見れないかわり、1対2のアドバンテージと土地すらも落とす可能性を持つ《Hymn to Tourach》。
単純にカードを落とすだけでなく、『手札を見る』という行為が相手の2手、3手先を読めるという強みにもなります。
手札破壊だけだと2手、3手先のドローによる相手のプラン変更に対応しきれないのが難しさの一つで、それを楽しむ黒プレイヤーも大勢います。
黒以外では《ヴェンデリオン三人衆》や《難題の予見者》など、クリーチャーでの手札破壊?がよくみられます。
たとえば火力。
モダンでも絶賛活躍中の《稲妻》は低マナ域のクリーチャーを簡単に仕留め、プレイヤーへのけん制やトドメにもなるので腐る場面がほぼありません。
《燃え柳の木立ち》と組み合わせれば何度でも使用できる《罰する火》。
全体火力も2マナから存在するので――ピッチコストで0マナのものもありますが――、高速のクリーチャーデッキやヘイトベア戦略にも対応できます。
低マナ域のクリーチャーが多く活躍する環境だからこそ、赤を選んで薙ぎ払うことが有効です。
赤を選択すればライフゲイン対策や特殊地形対策など、変わったアプローチもできますよ。
え、緑が出てこない?
健気に戦う色ですから仕方ありません。
いえいえ冗談ですよ。
3マナ以下ならカウンターのリスクなく破壊できる《突然の衰微》(黒との混色ですが)。
刹那持ちで《殴打頭蓋》や《師範の占い独楽》に対応できる《クローサの掌握》。
エンチャント・アーティファクト破壊に優れているほか、墓地対策にも優れています。
他にも《不毛の大地》を筆頭とする特殊地形対策や、《ガドック・ティーグ》や《翻弄する魔道士》など、そもそも唱えさせないカードもあります。
そうなんです。どれかの色に特化すればその弱点をつかれ、色を増やせば多色対策をとられやすくなってしまう。
上手いバランスの上でレガシーのメタゲームが回っていて、単色のデッキでも理解があれば勝ち得ます。
4.
では、これらを踏まえて《悪夢の織り手、アショク》の可能性について考えていきましょう。
使用するカラーは青と黒。
のぶ太くんの手持ちカードを考えると3色目はいったん考えずにおきますね。
この2つのカラーが得意なことは
青:カウンター、ドロー、バウンス、墓地利用(インスタント、ソーサリー)
黒:手札破壊、クリーチャー破壊、マナ加速、墓地利用(クリーチャー)
などがあげられます。
続いてアショクができることは
+ 2:ライブラリーアウト
- X:クリーチャー着地によるボードアドバンテージ確保
-10:手札、墓地対策
ざっと説明するとこうです。
クリーチャーの少ないコントロールデッキには+能力と奥義で勝ちを狙いに行きます。
一方で、クリーチャー主体のデッキには+能力で追放したクリーチャーを-能力で出し、自身を守りつつあわよくば相手のクリーチャーで殴り勝てます。
非常にバランスのいいプレインズウォーカーですが、コンボデッキやアショクの能力では追い付けない展開力を持つビートダウン相手には不向きといえるでしょう。
続いてアショク自身の弱点は
・カウンター、手札破壊
・置物破壊(青、3マナ以下、プレインズウォーカー)
・火力を含めた打点
など、多く存在します。
カウンターなどはやむを得ないとはいえ、《赤霊破》や《突然の衰微》で倒れるのは看過できませんね。
基本が+能力の連打なので、他のプレインズウォーカーよりも火力には強いですが、自身を守る-能力が相手依存なのでクリーチャーの打点対策は別途必要です。
さて、厄介な《赤霊破》や《突然の衰微》を回避する方法ってなんでしょうか?
アショクに呪禁をつける?
ちょっと現実的ではありませんね。
手札破壊とカウンターで回避?
有効ですが、両方がインスタントでかつ《突然の衰微》は打ち消されない。
手ごわい相手ですよね。
《赤霊破》や《突然の衰微》のないデッキと戦う?
なかなか面白い答えです。
でも、入っているデッキとは当然当たりますよね。
そう、サイド後にそれらのカードを少なくさせて、満を持してのアショク登場です。
黒を主体とした青黒2色で、3マナ以下のパーマネントが少ないデッキ。
それでいてアショクの苦手とするコンボデッキやビートダウンとも渡り合えるスペック。
私は《リアニメイト》を推奨します。
《The Nightmare Before Reanimation》
土地 (15)
2 血染めのぬかるみ/Bloodstained Mire
2 溢れかえる岸辺/Flooded Strand
2 島/Island
4 汚染された三角州/Polluted Delta
1 沼/Swamp
4 Underground Sea
クリーチャー (7)
1 灰燼の乗り手/Ashen Rider
1 大修道士、エリシュ・ノーン/Elesh Norn, Grand Cenobite
1 墓所のタイタン/Grave Titan
3 グリセルブランド/Griselbrand
1 エメリアの盾、イオナ/Iona, Shield of Emeria
呪文 (38)
1 動く死体/Animate Dead
4 渦まく知識/Brainstorm
4 入念な研究/Careful Study
4 目くらまし/Daze
4 納墓/Entomb
4 死体発掘/Exhume
4 Force of Will
4 水蓮の花びら/Lotus Petal
2 思案/Ponder
4 再活性/Reanimate
3 思考囲い/Thoughtseize
サイドボード (15)
4 悪夢の織り手、アショク/Ashiok, Nightmare Weaver
2 見栄え損ない/Disfigure
2 四肢切断/Dismember
2 強迫/Duress
2 残響する真実/Echoing Truth
1 ヴリンの神童、ジェイス/Jace, Vryn's Prodigy
2 真髄の針/Pithing Needle
5.
「ありがとうございます店長、これで悪夢からオサラバ。
むしろ俺が悪夢使いになってやりますよ」
解決策が見つかり元気を取り戻したのぶ太。
不思議なことに瘴気による痣はどこにも残っていません。
「よかったですねのぶ太くん。
デッキもついに完成しましたし、うちのレガシー大会にもまた参加してください」
「はい、ですが今日は眠くなってきたのでまたの機会にします。
たくさん新しい話も聞きましたし」
「そうですね、ではお気をつけて」
「じゃあな、ギャザ松。
悪いけど今日はもう行くわ」
「え、僕の家に泊まるって話は……」
「すまん、やっぱり今日は自分ちで寝るわ。
お前もレガシー組んだら遊ぼうぜ」
こうしてさらなる一歩を踏み出したのぶ太。
しかし立ちはだかる障壁はまだ高く、そのうえに立つのがかつての友であることをまだ彼は知らない。
~fin~
特典描き下ろし小説『裏切りに白き制裁を』
「さて、ギャザ松くん。
君もレガシーを始めたいということだけど、どんなデッキを組みたいなどの希望はありますか」
「はい。
でも僕はまだエターナル環境に詳しくないので、今から言う内容に沿って店長がデッキを選んでもらえませんか」
「ええ、期待に応えましょう」
「まず、僕はバイトの身なのであまり高価なデッキは組めません。
できれば単色がいいのですが」
「なるほど、他には」
「青黒リアニメイトを、いえ、のぶ太を明確にメタれるデッキがいいんです。
抜け駆けした挙句僕の気持ちを翻弄したあいつに、後出しジャンケンがどれほど有効かわからせてやるために」
「それならいいものがありますよ。
《デス&タックス》という白単のデッキです。
土地は少々しますし、せっかく持っている《フェッチランド》は使いませんが、コンボデッキに充分すぎる威力を発揮できるでしょう。
この《ファイレクシアの破棄者》はアショクの能力はもとより、《水連の花びら》の起動すら許しません」
「ここに今月のバイト代があります」
「ギャザ松くん、お主を悪よのう」
「いえいえ、店長ほどでは」
こうしてGameShopさかいやの夜は更けていく。
闇に消えたギャザ松のバイト代が見つかることももうないだろう。
~fin~
ちゅん
渦巻く知性と天然さ溢れ出るMTGマスター。
KMCなどの関西のレガシートーナメントシーンで
大活躍しつつ、各所でコラムを執筆する文豪。
さかいやをこよなく愛している(はず)。
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