レガシーのすすめ#3
2016年11月吉日
Auther : ちゅん
レガシーのすすめ#1はコチラから
※お詫び
ちゅん先生より本原稿を8月中に受け取っておりましたが、掲載が遅れましたことをお詫びいたします。
FNM。
金曜日の夜、マジックプレイヤー達は店舗に集まり、自身の構築とプレイングで大会を楽しんでいる。
多くの店舗は《スタンダード》での盛り上がりを見せているが、店舗はフライデーナイトマジックのフォーマットを選択可能だ。
GameShopさかいやは《スタンダード》《レガシー》2つのフォーマットでFNMが開催されている。
参加費は200円で、3勝したプレイヤーにはプロモカードに加え参加人数に応じた商品券が配られるというお得な内容だ。
BOX購入などでFNM参加券も手に入るので、さかいやで購入したカードで大会に参加というプレイヤーも多い。
そして今宵、因縁を持つ二人のルーキーがレガシー大会に足を踏み入れる。
1.
金曜日、のぶ太がやってきたのはいつものさかいや。
しかし参加する大会はスタンダードではない。
「店長、今日はレガシーで出ます」
スタンダードならゲームデーやGPTにも出場経験のあるのぶ太だが、初めてのフォーマットとあり緊張は隠せない。
「ついにレガシーデビューですか、おめでとうございます。
今日はもう一人、レガシー初心者がいますよ」
「え、それはちょっと安心できますね。
いったいどの方ですか」
デュエルスペースを見渡すのぶ太。
しかし見るのはいつもスタンダードで遊んでいる相手と、隣でレガシーをしている今日のライバルばかり。
新しい顔はどこにも見当らない。
「それは僕だよ、のぶ太」
振り返るとギャザ松がやや腰をくねらせ、左手を顔にあて、右手の人差し指をのぶ太に向けていた。
なんだか思わせぶりなポーズである。
「その声は……ギャザ松!」
なのでのぶ太は一歩後じさり、大仰に反応することにした。
その際店長の足を踏んでしまったのでひとまず二人で謝罪。
「ギャザ松、おまえ最近連絡ないから心配してたんだぞ。
いったいどうしたんだよ」
「簡単なこと、バイトを目一杯入れてたのさ」
「まさか、レガシーのデッキを作ったがために……」
「くくく、ご明察。
僕の課す税から逃れることができないとをわからせてやるよ!
……くそぅ、今さら心配なんてしても遅いんだからな……」
最後の一言が小さくてのぶ太には聞き取れませんでしたが、どうやらしばらく見ない間にギャザ松は厨二病に罹ってしまったらしい。
「望むところだ!
俺のアショクでお前の悪夢を打ち消してやるぜ!」
のぶ太は持ち前のノリの良さで返す。
ひょっとするとのぶ太の中にも厨二の心が宿っているのかも。
「いいだろう。
最終戦、決勝で待っているぞ」
2.
「で、二人は無事に最終戦で当たったわけですね。
――全敗ラインで」
「1勝の重みも知らず貴重な酸素を減らしていたことをお許しください、サーさかい店長」
「母の子宮にたどり着けず死んでしまった哀れな精子に生かされた奇跡の無能でした、サーさかい店長」
フライデーナイトマジック終了後、店長のはからいで反省会を行われていた。
大会前の厨二オーラはどこへやら、二人は正座でうなだれている。
「これこれ、そこまで悲観することはなかろう。
最終戦もお互い壮大にもたついて引き分け、レガシーの記念すべき1勝目は次回に持ち越しですね。
では気持ちを切り替えてレガシーで気づいたこと、気をつけることを学んでいきましょう」
負けをただへこむだけではなかなか上手くなれません。
時には自身で気づき、あるいは先達に教えてもらうことで一歩ずつ理解を深めることが勝利へとつながるのです。
「あの、1回戦での出来事なんですけど」
はじめにのぶ太が話し始める。
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「後手1ターン、《Underground Sea》から《死儀礼のシャーマン》」
「(う、これは早くしないとクリーチャーを食べられるやつだ)対応して《納墓》唱えます」
「ではピッチコストで《目くらまし》キャスト」
「えい、《意思の力》」
「こちらもだ」
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「なるほど、よくあるカウンター合戦ですね。
のぶ太くんの1戦目はブランドル富良井くんでしたか。
デルバー使いの彼とさっそく当たるのはコンボ使用者としては辛かったでしょう。
ですが1ターン目からこれほどまでのカウンター合戦ができるのはレガシーならではですよ」
「ええ、すごく新鮮でした。
ですが気になったのはここからなんです。
打ち消されたカードを全部墓地に置いたんですが、対戦相手の方に注意されまして」
「私も見ていましたよ。
実はモダン以前のフォーマットには『墓地の順番を変えてはいけない』というルールがあるんです。
《冥界の影》《浅すぎる墓穴》など、以前には墓地の順番を参照するカードがあったからですね。
このケースは稀ですが、使えるカードが多いということはそれだけ条件が変わってくる場合があります。
順番だけでなく墓地にカードが置かれるタイミングなども案外注意されやすいポイントですね。
エターナル環境初心者は《タルモゴイフ》に稲妻を唱えた場合、《剣を鋤に》を唱えた場合で挙動を覚えるケースが多くあります。
(《稲妻》は解決時に3点のダメージを与えるが、タルモゴイフが破壊され墓地に置かれるのは状況起因チェック時なので、その時点で稲妻は解決が終わっているため、稲妻は墓地に落ちており、それを《タルモゴイフ》の能力で参照する)
(《剣を鋤に》は解決時に《タルモゴイフ》を追放し、パワー分のライフを得るため、タルモゴイフが追放される時点では、剣を鍬には墓地に落ちていないため、参照されない)
現行スタンダードには《昂揚》があるので墓地に関するルーリングにはとっかかりを得やすいのではないでしょうか。
もちろん、スタンダードで慣れていた挙動や何気なくやっていたことがレガシーの場合簡単にいかないこともあります」
「そういえばフェッチランドを切ったときにすぐライブラリーからカードを探そうとして止められました」
「そう、基本でない土地への対策などは顕著ですね。
《不毛の大地》《血染めの月》《もみ消し》、スタンダードでは抑制されている土地攻めがあるからこそ、テンポデッキや土地単が輝きます」
その中でも《もみ消し》は見えないところから飛んでくるので、フェッチランドを起動してすぐに探すのは危険ですよ。
慣れない環境だからこそ、優先権の確認はしっかりと行いましょう」
「《刹那》つきのフェッチランドがあれば安心なんだけどなぁ」
「《刹那》があるからといって安心はできませんけどね。
タルキールブロックにもあった《変異》など特別な事例はすでに学んだでしょう?
《相殺》をうまく使えば《クローサの掌握》を打ち消せるように、あらゆるものに突破口が用意されているものが20年を超える歴史を持つマジックの面白さです」
「まだまだ覚えること、気をつけることは多そうですね」
3.
「僕はデッキの使い込みの足りなさを自覚しました」
ギャザ松は2回戦での経験を話しはじめた。
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「《霊気の薬瓶》はこうやって使うのよ、終了ステップに起動します」
「はい、どうぞ」
「《水晶スリヴァー》を戦場に出しました」
「え、じゃあ出る前に《剣を鋤に》を――」
「ダメですよ、もう出ちゃったもの」
「そうなんですか」
「出るに際しては優先権が発生しませんから。
こちらのターン、《筋肉スリヴァー》キャスト、さらに《筋肉スリヴァー》を薬瓶から出すわ。
これぞ“マッスルドッキング”!!」
「ぐわー」
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「なるほど、取巣ことりさんのスリヴァーに当たりましたか。
ちょうど同じ《霊気の薬瓶》を使う相手、いい経験になったでしょう」
「はい、いろいろ教えてもらいながら試合できました」
「今の話ですが、レガシーでは《実物提示教育》や《緑の太陽の頂点》があるので、クリーチャーが戦場に出ることについても注意が必要ですね。
cip能力とも呼ばれる『戦場に出たとき』の能力は一旦優先権があるのと違い、常在型の能力は戦場に出た後はすでに効果があるんです。
ふつうクリーチャーはクリーチャー呪文として唱えたときに優先権が発生するので違和感を感じるかもしれませんね」
(《実物提示教育》の場合、プレイヤーが同時にカードを出す。
そのため《真髄の針》を手札から選択し、同時に戦場に出るカード名を指定したらそれは起動できない。
一方で《忘却の輪》を選択した場合、戦場に出てから誘発するので、そのスタックで対象に選ばれたカードの起動ができる)
「スタンダードだと《集合した中隊》をよく使われますが、常在型能力で気にしたことはありませんでした。
《異端聖戦士サリア》は常在ですがこちらのパーマネントが出る前に割り込みできますし」
「そうですね、《集合した中隊》は今回のような事態を起こらずに退場しそうです。
まぁクリーチャーを場に出すカードは《異界の進化》など他にもありますので、今後のスタンダードでは一癖あるかもしれませんね。
能力といえば《デス&タックス》には《ファイレクシアの破棄者》《ちらつき鬼火》《石鍛冶の神秘家》などトリッキーな能力を持つクリーチャーがたくさんいます。
どれもタイミングや指定が合えば素晴らしい効果をもたらす分、使用は単純ではありません」
「使ってみてよくわかりました。
来週も実践練習します」
4.
「さて、ひとまずこれくらいにしておきましょう。
実際にデッキを作っただけでは気づいていなかったこと、たくさん見つけられましたか?」
「はい店長、閉店後に時間をいただきありがとうございます」
「大会後にこうやって振り返る機会は大切ですね」
デッキを作るだけでは中身はわからない。
対戦を通じて初めて、1枚1枚のカードの真価に気づくことは多い。
二人は店長にお礼を言い、さかいやを後にした。
「なぁギャザ松、俺たちが最終戦で引き分けたのって、それだけデッキの使い込みが足りなかったからだよなぁ」
「そうだね、来週までにはもっと練習しておかないと」
「なぁ、これからおまえん家行ってもいいか?
俺もっと回したいんだ」
「え、マワす……」
「あぁ、二人でレガシーの練習して、今度こそ3勝をかけて戦えるところまで行こうぜ」
ギャザ松はうつむき、沈黙した。
バイトが続いていると聞いていたので、疲れているのかも。
そう思いのぶ太はやっぱりやめておこうといいかけたそのとき――
「いいよ、そうと決まれば早くうちへ行こう」
ギャザ松はのぶ太の手を掴み、なんば駅へと駆け出した。
そして二人はギャザ松の部屋で――
~fin~
ちゅん
渦巻く知性と天然さ溢れ出るMTGマスター。
KMCなどの関西のレガシートーナメントシーンで
大活躍しつつ、各所でコラムを執筆する文豪。
さかいやをこよなく愛している(はず)。
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